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理系の論文と文系の論文 [学校生活(学問)]

修士論文の見通しがついてきたので、ここ数日医学論文も並行して書いている。

そこで気付いたのだが、文系と理系の論文では具体的な内容はもとより、物の見方、論理性、文章の組み立て方、使う単語まで全てが異なっている。おそらく使っている脳の部分も異なるのではないかと思う。

理系の論文では一つ一つの文章に実証的かつ確実な裏づけを要する。それぐらい論理性において緻密である。しかし文系ではある程度推測で物を言ったり論理に飛躍があっても許されるフシがある。その意味で理系の文章の方が書くとき気を使う。常に裏を取りながら話を進めていかないといけない。

逆に文系の論文で大変なのは、具体的な事項とその分野のグランド・セオリーを結び付けないといけない点である。例えば僕の修士論文のテーマは「現代日本における東洋医学と西洋医学の融合現象」なわけだが、ただ融合現象を記述するのみでは学術論文とは見なされない。人類学や社会学の大家が唱えた理論と結び付けなくてはならない。ウェーバー、デュルケム、フーコー、ボアス、ギアツ、ダグラスといったビッグ・ネームの人達の理論によっていかにその日本固有の現象が説明可能かを長々と記述する。

一方医学論文ではそういうことをする必要はない。非常に細分化した領域に関してテータを取り、その領域内で議論も完結する。例えば、今僕は「頚動脈のある2つの硬化性病変がお互い移行しあうか」というテーマについて論文を書いているのだが、僕のデータはヒトの頚動脈のたかだか1cmくらいの領域から導き出したデータで、僕の考察や議論もこの1cmの範囲からほとんど一歩も出ない。一方の修士論文では日本の医療の話題からグローバル化とは何か、そもそも文化とは何かといった話題まで広がっていくのに対し、もう一方の医学論文では1cmの頚動脈ですべての話題が完結する。

特定のトピックからその分野全体を見渡していく文系の論文に対して、周りにはわき目も振らず特定のトピックをどんどん掘り下げていく理系の論文。この差は学者の能力にもなって現れている。あくまで僕の主観だが、理系の学者に比べて文系の学者の方がgenerality-specialityのバランスに優れている。つまり自分の専門トピックについての知識と自分が所属している学問全体についての知識とのバランスが良いように思う。イスラム圏を専門にしている人類学者でも人類学全体に関する知識をきちんと備えている。

一方理系ではこうはいかない。僕の知人の医学研究者は眼の奥にある特定の種類の細胞に含まれる化学物質について研究している。彼は医者なのだが目しか診れない。そして彼の研究能力は眼の奥の細胞の中でしか発揮されない。その細胞から一歩外に出るとチンプンカンプンになるのだ。彼は決して特殊な例ではない。ほとんどの医学研究者が自分が専門にしている特定の遺伝子や蛋白質から一歩外に出ると素人同然になってしまう。こういう現実が分野の限りない細分化を引き起こす。

しかし文系の論文にも問題はある。論理に厳密性がなく、ともすると言葉の遊びに走りがちになってしまう。内容の薄い論文ほど言葉遊びに凝っている印象がある。さらに主張している内容に裏づけがあまりないので、いくらでも反論・批判ができる。すぐに学派に分かれてお互いエンドレスに批判しあう。理系では厳密な実験をやってその結果を示せば論争は終わる。文系にはそれが無いので水掛け論に陥り、分野そのものがあまり発展していかない。

要するにお互い一長一短なのである。


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Tomo

私が日本で所属していた大学院研究科は"学際”を売りにしてました。しょちょうさんが文系と理系に分けたのとはちょっと違うのですが、要するに"専門" (理系かな?)を乗り越えたところに"学際”あるという考え方でした。

ただ、私の準指導教官であった佐藤氏によれば:
”インターディシプリナリーは、単なる狭間の学ではなく、一段高次の概念に照らして、ディシプリンを再編成することだと思います。諸学の水平的なやりとりは、クロスディシプリン、あるいは、プルリディシプリン、マルチディシプリンという別概念があるようです。”

ということもあるので、単に"学際”と言っても、実は結構深い概念だなーって思います。
またこれは"学際"的な研究をしている私たちにとって、自分の専門性をどのように作っていくのか、という問題を露呈させます。全部は出来ないですからね!
by Tomo (2005-08-08 10:34) 

しょちょう

なるほど、その先生の言わんとしている「学際」とは敢えて英語に訳すと「トランス・ディシプリン」ですね。単なる分野の積み上げを超えたものという意味ですね。
僕のここでの準指導教官のUlijaszek先生を見ていて思うのですが、本当の学際(トランス・ディシプリン)肌の学者というのは、常軌を逸したぐらいのintellectと人格のintegrityを要するようです。その意味で真に学際的であるということは、決して生やさしいことではないなと感じています。逆に、一つの分野に完全にコミットしてしまうほうが楽かもしれません。
いずれにせよ、我々はその困難な道に足を踏み入れたわけで、これからも自分の中でいかに異なる分野を統合していくかを自問自答し続けることになるでしょう。ただ、その先に得られるものは大きいと思います。がんばりましょうね。
先日奥様にお会いしたのですが、お食事会の件、楽しみにしてます。
by しょちょう (2005-08-08 10:55) 

Aa@出先

こんにちは.出先からなので名前にリンクなしで失礼します.
現在ネットや娯楽のための本その他,いつもの遊び空間から隔絶されてひたすら専門書を読んでいる身には,とても興味深いお話でした.
つい昨日も社会学の入門書とはいえ専門的に書かれた本を読んで,その自分なりの総括としての書評を書いてみていたんですが,
「優しい」とか「社会に対して希望を抱いている」なんて形容を当たり前に使っている自分に気づいて,これでいいのかと悩んでいたところです.
帰ったら自分のブログに記事として載せるつもりでしたから,社会学を専門としない人にもその魅力が分かるようにと考えていたとはいえ,
ここの部分に関しては完全に,その本を読んで自分が感じたことそのままを文字にしていたので.

文系においてはある程度「直観」というものが許容されるフシがあると思います.論理に飛躍があっても,ある程度の人数に対して説得力がありコンセンサスが得られれば,それは認められる.
文系が扱うものは結局のところ,論理だけにはしにくいものなのでしょう.しょちょうさんの以前の記事で,人を殺すことは悪であるが,イラクに爆弾を落とした兵士が勲章を貰っているという現象が紹介されていましたが,
つまり,ああいった物事を日常的にあつかう(遭遇する)のが文系ではないかと思うのです.
しかしどうしても直観だけでコンセンサスをとることは難しいですし,不安を伴います.そのために引っ張ってこられるのが歴史,つまり大家の成した業績なのでしょう.
つまりグランド・セオリー=グランド・コンセンサスではないかと.ちょっと変な造語ですけど.

文系の論述の問題点についても,非常に参考になりました.私自身つねに意識し戒めとしている部分です.
私はそれを乗り越えるための一方策として「社会への還元」を考えています.
これを書くことは,議論することは,社会のために役に立つのか?という自答を常に持つことです.
これはある種文系ならではの特権だと思っています.
理系は結果として社会のために役立つ研究をすることは珍しくないでしょうけど,考えを構築する途中において「社会のため」などという雑念を入れることはむしろ忌避するのではないでしょうか.
とはいえ文系でも,すべての分野で出来ることではないと思いますし,やることがむしろ危険であるというジャンルも当然存在するでしょう.

ともあれ,インプットばかり多くてアウトプットがまったく出来ない環境にいるもので,思わず長文でしゃしゃり出てしまいました.
ああ早く家に帰って,得た知識を元に誰かと議論したくてたまりません.うあー.
by Aa@出先 (2005-08-08 17:30) 

しょちょう

Aaさん
そうですか、社会学ですか。社会学も人類学も親戚のような学問ですから、おっしゃることの意味はよく分かります。
自分の学説を強化するためにエスタブリッシュされた過去の学説をそれにくっつけようとするのは、実は文系だけではなく理系でも当たり前に行われています。科学的知識というのはそうやって「学説」から「真実」へと変換されていきます。爆弾落とした空軍パイロットの話の引用元であるブルーノ・ラトゥールの「科学が作られているとき」はそういった科学的知識の脱構築を試みた画期的な本です。
社会の役に立つ研究をするという心がけは大事だと思います。その意味ではどの分野でもアメリカの研究者が最も進んでいるのではないかと思います。イギリスの、しかもオックスフォードのようなところは社会への還元よりも学問的美を追求する傾向があり、ともすると自慰的な研究に陥りがちのようです。
by しょちょう (2005-08-08 19:29) 

scot

> 学問的美

良い言葉ですねー。 理系の論文(あまり理系、文系をわけて
考えるのは個人的にはいや)にも、この美を意識したものが
あればいいのに…。 あまりにも量子的なことばかり書いて
あり、こっちの数値の方が良いから、優れているという
論調ばかりですよねー。

個人的には、こっちのほうが、エレガント(決して、数式が
エレガントだからとかではなく、つまり、簡潔だからではなく)
だからいいのに。。。
とか、この方法のほうが個人的には(感情的に)採用したいのに
とかはよく考えてしまいます。

理系の人は、確かに専門ばか的傾向が強く、了見の狭い、
趣味の悪い人が多々見受けられるような(個人的経験から)
気がします。

文系の人(企業の総合職の人)は、趣味が洗練されて、物事
を俯瞰的にみる方が多いような。。。気もする。あくまでも
イメージですけどね。でも突拍子も無い話をしたりして、
たまに がっかりすることがありますけど。。。
あと文系の人は、理系の人の技能を認めつつ、人格的に
見下す人が多いような。。。。

すべて、たわごとでした。。。
by scot (2005-08-09 10:26) 

しょちょう

Scotさん

>理系の人は、確かに専門ばか的傾向が強く、了見の狭い、趣味の悪い人が多々見受けられるような

実は僕もそういう傾向を見出しているのですが、これはあくまで主観なのでどれほど真実として受け入れてよいのかは判断しかねています。しかしながら、社会全体を眺めながらそれを引っ張っていく人、すなわち官僚や政治家や大企業の幹部、トップクラスのジャーナリストなどの社会的エリート(学者などの知的エリートではありません)は必ず文系学問のたしなみが必要です。それだけは言えると思います。
by しょちょう (2005-08-09 18:23) 

Aa

こんばんは。しょちょうさん、そしてscotさん、横から失礼します。
学問的美、そういえば私にはあまり無いものだと気が付きました・・・。
私は自分の文章にはかねがね美が足りないと悩んでいたのですが、理由が分かりました。私はそもそも美の方向を指向していなかったのだ・・・がーん。

それはさておき。
>専門ばか的傾向が強く、了見の狭い、趣味の悪い人
典型的文系人間ですが何故か周りには理系が多い人間としては、これはやっぱり文系理系に限らない気がします。
私はこれは、頭のいい(知能指数が高い)人が陥りやすい傾向なのではないかと考えています。
頭がいいって、実は苦痛で孤独なことだと思うのですよね。周りに対して「どうしてこんなことも分からないんだ(分かってくれないんだ)」という苛立ちを感じることも多いのではないでしょうか。その結果、自分の殻に閉じこもる。ねじくれた自尊心を持つ、他者の痛みが分からない、そういう人も多々いるように見受けられます。もちろんそうでない人もいるのですけど。
そしてここがポイントなんですが、文系であれば(特に企業の総合職ともなれば)嫌でも頭の良くない大衆を相手にすることが多く、天才もなんらかの形で折り合いを見つけていくのですが、理系は天才がそのまま天才街道を突っ走っていられる場合が多い気がするのです。結果、専門ばかが出来上がるのではないでしょうか。

私はでも理系にも憧れますね。森博嗣さんという、名古屋大の助教授にしてミステリ作家という方が、「理系は文系の上位互換」という発言をなさっていて、「なにをー」と思ったのですが、「まーそうかな」と一方で思うことも時々あります。
隣の芝は青いというやつなのでしょうか。
by Aa (2005-08-10 03:42) 

しょちょう

Aaさん
確かに文系の人はヒト相手の仕事をする可能性が高いので社会性を身につけやすいの対し、理系の人は機械とか細胞とかを相手にした仕事をすることが多いので社会性を失いやすい、というのはあるのかもしれません。いずれにせよ、推測の域は出ませんけれどもね。
理系に憧れるというのはまさに「隣の芝生は青い」だと思いますよ。どちらもそれぞれ長所短所がありますからね。
by しょちょう (2005-08-10 04:31) 

scot

> 文系理系
> 実は僕もそういう傾向を見出しているのですが、これはあくまで> > 主観なのでどれほど真実として受け入れてよいのかは判断しかねています。

素朴な疑問なのですが、こういう違いで、人間を比較する
学問分野などは、存在するのでしょうか?

無ければ、結構面白いテーマなのではないのでしょうか?
by scot (2005-08-10 21:40) 

しょちょう

scotさん
強いてあげれば人類学や社会学でしょうけれども、あまり見たこと無いですね。まあステレオタイプを強化するような研究は基本的にご法度とされているので。
by しょちょう (2005-08-11 01:26) 

scot

そうですか。。。

自分も、血液型別の性格チェックぐらいの、危険な香りは
しますね。。。。
by scot (2005-08-11 10:05) 

cle

あなたのこの記事の記述は素晴らしい考察ができていると思います。

ということだけを伝えたくてコメントさせていただきました。
by cle (2007-09-04 07:11) 

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